認知症の症状・病理的変化
認知症は、記憶や認知機能が障害される症候群で、さまざまな原因に基づいて発症します。以下は代表的な認知症の種類、その症状と病理的変化についての概要です。
アルツハイマー型認知症(AD)
症状
- 初期段階では短期記憶の障害(新しい情報を覚えられない)
- 進行すると、言語障害(言葉が出にくくなる)、視空間認知障害(物の位置や距離を把握できない)、判断力低下などが見られる
- 性格変化、興味の喪失、社会的引きこもりが見られることもある
病理的変化
- アミロイドβ斑:脳内にアミロイドβというタンパク質が異常に蓄積し、プラークを形成する
- タウ蛋白の異常:タウ蛋白が過剰にリン酸化され、神経細胞内に「神経原線維変化(NFT)」として蓄積され、神経細胞を傷害する
- 脳萎縮:特に海馬や側頭葉、頭頂葉で顕著な萎縮が見られる
- 神経細胞の死滅と神経伝達の障害が進行
血管性認知症(VAD)
症状
- 記憶障害のほか、注意力や集中力の低下、思考の遅れが見られる
- 感情の不安定、歩行障害や運動機能の低下がしばしば現れる
- 症状は発作的に進行することが特徴的で、急激な認知機能の低下が見られることがある
病理的変化
- 脳血流の低下が原因で、脳の一部に虚血(血流不足)や梗塞(血管が詰まる)が発生
- 白質病変(脳内の白質部分の変性)が見られることが多い
- 小さな脳卒中や微小血管障害が脳の各部に生じ、認知機能の障害を引き起こす
レビー小体型認知症(DLB)
症状
- 初期には注意力や記憶力が低下し、視覚的幻覚(存在しないものを見る)が現れる
- 運動障害(パーキンソン症状、例えば震えや歩行困難)、筋肉のこわばり、表情が乏しくなる
- 認知症が進行すると、幻覚、妄想、認知機能障害が複雑に絡み合う
病理的変化
- レビー小体:脳内にレビー小体と呼ばれる異常なタンパク質の塊が神経細胞に現れる
- 脳の皮質や黒質にレビー小体が形成され、これが神経伝達に障害を与え、認知症や運動障害を引き起こす
- パーキンソン病と似た病理的変化が見られることもある
前頭側頭型認知症(FTD)
症状
- 言語障害(言葉が出にくくなる、意味がわからなくなる)や行動の変化(社会的規範を無視するなど)が初期に現れる
- 性格の変化、衝動的な行動、共感の欠如などが顕著記憶障害は比較的後期に現れ、初期は実行機能や判断力の障害が優位
病理的変化
- 前頭葉や側頭葉の萎縮が進行特に前頭葉の神経細胞に異常が生じ、人格や行動の変化が引き起こされる
- タウ蛋白の異常沈着や、TDP-43という異常なタンパク質が関与することがある
パーキンソン病認知症(PDD)
症状
- パーキンソン病の運動症状(震え、筋肉のこわばり、歩行障害)に加え、認知症の症状が進行する
- 初期段階では注意力や記憶障害、次第に視覚的幻覚や妄想が現れる
- パーキンソン病と並行して進行する認知症であるため、運動症状と認知症症状が絡み合う
病理的変化
- パーキンソン病と同様、脳内の黒質におけるドパミン細胞の減少が見られる
- レビー小体の蓄積も関連しており、レビー小体型認知症に似た病理学的変化がある
抗認知症薬
認知症に対する治療薬は、進行を遅らせることが目的であり、症状を改善することが期待されます。以下の薬が一般的に使用されます。
コリンエステラーゼ阻害薬
これらの薬は、アルツハイマー型認知症を中心に使用され、アセチルコリンという神経伝達物質の働きを強化することによって認知機能を改善することを目的としています。
- ドネペジル(アリセプト):アセチルコリンエステラーゼを阻害し、アセチルコリンの分解を抑えて神経伝達を改善
- リバスチグミン(エクセロン):アセチルコリンエステラーゼおよびブチリルコリンエステラーゼを阻害
- ガランタミン(レミニール):アセチルコリンエステラーゼを阻害し、アセチルコリンの作用を増強
NMDA受容体拮抗薬
- メマンチン(メマリー):NMDA受容体を遮断することで、グルタミン酸の過剰な刺激を抑制し、神経細胞の損傷を防ぐ
- 主に中度から重度のアルツハイマー型認知症で使用される
その他の治療薬
- 抗精神病薬(幻覚や妄想がある場合):リスペリドンやオランザピンなどの第二世代抗精神病薬が、特にレビー小体型認知症やパーキンソン病認知症で使われることがある
- 抗うつ薬:認知症に伴う抑うつ症状や不安症状に対して使用されることが多い
症状の進行を遅らせることができるが、完全な治療法はない
現時点では、認知症を完全に治す薬はなく、これらの薬はあくまで症状の進行を遅らせるための補助的な役割を果たしています。また、薬の効果には個人差があり、併用療法が有効な場合もあります。